三重県菰野町で活動する動物保護団体「Dep」。今回は、代表の堀口美香さんにお話を伺いました。2015年の設立から10年間、常時100頭近い犬猫の保護・譲渡活動を続け、多頭飼育崩壊の現場に一人でも向かう代表の姿勢には、命への深い愛情と強い使命感が込められています。医療ケアからしつけまで、動物と真摯に向き合う活動の実態について、詳しくお伝えします。

項 目内 容
団体名 動物保護団体 Dep
代表者堀口美香さん
設立年2015年
里親会毎月第3日曜日12時~15時
場 所千代田菰野俱楽部(三重県菰野町菰野8474-60) 
問合せ動物保護団体Depのホームページ
動物保護団体Depのインスタグラム
動物保護団体Depのフェイスブック

団体設立のきっかけ

iyコーギー: 
本日はお忙しいところ、ありがとうございます。
早速ですが、団体を立ち上げたきっかけからお聞かせいただけますか?

堀口さん:
こちらこそ、ありがとうございます。
もともと学生時代から個人的に動物を保護する活動をしていたんです。結婚後、しばらく活動を休止していたのですが、ある出来事をきっかけに再開を決意しました。

一番きっかけになったのは、12年くらい前になると思いますが虐待されたシェパードがお寺の境内に捨てられていて、近隣の方から引き取ってほしいと相談されて。放っておけませんでした。
耳に刻印がある純血種の子で、耳を切って個体識別の番号を消そうとした痕があったんです。おそらく繁殖業者が捨てたんじゃないかと。日常的に虐待されていたんだと思います。

iyコーギー: 
それが団体設立の原点になったんですね。

堀口さん:
実はその後に私自身の健康状態で気になることがあり、病院に行ったら悪性のがんの疑いで、全身に転移している可能性があると言われました。

もしそうだったら余命数年。と言われて…
結果待ちの一週間ほどは寝られませんでした。
その時に考えたんです。「やり残したことは何だろう」って。
それがこの保護活動だったんです。

結果的には何ともなかったんですけど、その時主人に言いました。「実は昔、猫の保護をしていて、もしもう一度命をもらえたら、動物たちの為に生きたい!」って。
一度死を覚悟してるから、もう一度命をもらったと思って、残りの人生は犬猫に捧げると決めました。
それで2015年から正式に団体を立ち上げました。
今年の12月で丸10年になります。あっという間でしたね。


保護から医療ケアまで

iyコーギー: 
主な活動内容について教えてください。

堀口さん:
猫や犬の保護と譲渡、それと野良猫のTNR活動ですね。(捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)

飼い猫・飼い犬の飼育相談も受けています。しつけがうまくいかない方や、何か事情があって手放したい方の相談もありますね。

iyコーギー: 
保健所との連携もあるのでしょうか?

堀口さん:
はい。私たちが活動を始めた頃とは状況が変わってきていて、保健所も安易に引き取らないという姿勢に変わっています。
私たちは保健所に直接連絡して、引き取り手を探している子がいれば、引き取るようにしています。お互いに協力しながらやっているという感じですね。私たちが直接現場に出向いて引き取ることもあれば、保健所から「こういった子がいるんですが、力を貸してもらえませんか?」と連絡をいただくこともあります。
特に三重県は、団体と保健所が連携して殺処分ゼロを目指す動きが活発になっています。保健所と聞くと「殺処分をする場所」というネガティブなイメージを持たれがちですが、実際は行政の方々も動物たちの命を繋ぐために一生懸命取り組んでいます。迷子犬の飼い主を探したり、病気の子の治療をしたりと、私たちが知る以上に尽力してくださっているんですよ。

iyコーギー: 
現在、何頭ぐらい保護されていますか?

堀口さん:
常時100頭近くはいると思います。ほとんどが猫で、正確には数えていないのですが、年間100匹は下回らないと思います。子猫だけで100匹を超える年も多いです。犬は年間20~30頭程度ですね。

私の本部だけでも40~50頭、預かりさんも含めると相当な数になります。
預かりさんは実働で10数名、それ以外にも個人の預かりボランティアさんにお願いすることもあります。

過酷な現実 ~崩壊現場と命の重さ~

iyコーギー: 
保護される猫はどのような経緯が多いですか?

堀口さん:
一番多いのは、野良猫に餌を与えていて手術が間に合わずに生んでしまうケース。最初は1匹でも、あっという間に増えてしまいます。

最近多いのはコロナ禍で飼い始めたけれど、忙しくなって構ってやれなくなったという相談。あとは高齢の方が施設に入ったり亡くなられたりして、家族が引き取れないケースですね。

iyコーギー:
多頭飼育崩壊の現場にも行かれるんですか?

堀口さん:
はい。依頼があれば2~3日中には現場に入ります。依頼の状況によっては、当日スグに走ることもあります。多くは精神的に病んでしまった飼い主さんで、お世話ができなくなって崩壊してしまうんです。

現場は本当に過酷です。
人間のゴミと糞尿が30センチぐらい堆積しているお家もありました。ドアをかがんで入らないといけないぐらい。
臭いも半端ないです。髪の毛や服に染み付いて1週間くらい取れません。

iyコーギー:
現場には団体のメンバーの方も一緒に行かれるのですか?

堀口さん:
いえ、基本的には私一人で入るか、協力ボランティアさんと入る事もあります
実際の現場は想像を絶するほど過酷過ぎてメンバーには見せられないです。メンタルをやられてしまうと思います。
私は感情移入をしないように、とにかく1頭でも多く救える命があればという思いで目の前の作業を進めるので考えてる暇もなく動いてるんです。どんなに大変な現場でも「今、生きているこの子たちが助かれば」と思いながら無我夢中で動いてます。
過去を見てもしょうがない。助かる子もいるから。

他の団体さんの協力依頼で崩壊現場に入ることも多いですね。
三重県の保護団体さんは横のつながりも大切にしてるので助け合う事もよくあります。

ジョジョとトイプードルの物語

iyコーギー: 
印象に残っている保護動物のエピソードを教えてください。

堀口さん:
うちにいるジョジョという子です。下半身不随で保護された子で、後ろ足が完全にブラブラ。尿意も便意もわからず、排泄の補助が必要な状態でした。でも、毎日マッサージやリハビリをして、先生の治療の素晴らしさと本人の頑張りで、見る見るうちによくなって。
今は走り回っています。

iyコーギー: 
完全に回復されたんですね。

堀口さん:
歩き方は普通ではないですけどね。後ろ足がピコピコしながら歩いています。後ろ足が踏ん張れないので、みんながピタッと止まっても止まれずに後ろ足が滑って「あれ?」ってなったりしますが(笑)

そういう子は譲渡が難しいので、基本的に私が最期の看取りまでします。「かわいそうだからもらってあげる」という理由で譲渡することはありません。「この子がいいから欲しい」と思ってくれる人じゃないと。

iyコーギー: 
他にも印象的なケースはありますか?

堀口さん:
トイプードルの話があります。その子は11年間、あるお宅の奥様がとても大切に可愛がっていたワンちゃんでしたが奥様が亡くなられて、1年後に旦那さんが連れて来られました。

足の裏がただれて爪も伸び放題!毛玉だらけで砂だらけ。
室内犬のトイプードルを外飼いしていたようです。「噛みません、いい子です」と言われましたが、預かりさんのところで初日に噛みました。そりゃ捨てられたんだから当然です。

帰る時に「ばいば〜い」と言ってサッサと帰られたのが、「いらないから処分した」みたいな感じに思えました。でも「そんな人のところで、暑い日も寒い日も外に繋がれたままお散歩にも連れていってもらえず飼われてるより、私たちの所に来られて良かったね!」って思いました。
その後は預かりさんのお宅に4、5年いて、最後は口腔の腫瘍で亡くなりましたが、最後の数年は預かりさんのお宅で可愛がってもらって、美味しいものもいっぱい食べて、幸せだったと思います。

犬のしつけ ~諦めなければ必ず変わる~

iyコーギー: 
犬の場合は、しつけにも力を入れていらっしゃるんですね。

堀口さん:
ある程度しつけを入れてから譲渡しています。二度と保護犬になってほしくないし、もし、トライアル中や譲渡後に逃げてしまったら命に関わりますので、呼び戻しができるようトレーニングしています。

長い子だと1年かかります。こないだのゴールデンレトリバーもそうでした。パニック発作が強い子で、ケージを2つ壊されました。
お腹が空いたり、一人ぼっちになるとパニックを起こす。その条件を見極めるのに数カ月かかるんです。今は、お留守番のないご家庭に巡り合い、常にお父さんと一緒。幸せに暮らしています。頑張った甲斐がありました。

iyコーギー: 
しつけのコツはありますか?

堀口さん:
絶対に諦めないことです。
犬がバカなんじゃなくて、飼い主が諦めちゃったらそこで終わり。犬はみんな賢いんです。
遊びの中で覚えさせる。座れ、待て、伏せなんて、遊び好きな子なら3日もあれば入ります。私にとっては訓練も遊び、コミュニケーションなんです。

医療ケア ~できなければ命に関わる~

iyコーギー: 
医療的なケアが必要な子も多いんですね。

堀口さん:
今、脳障害の後遺症がある全盲の5カ月の子猫がいます。
TNRの現場で倒れていたのですが、熱中症で衰弱し、脳障害によるてんかんを頻繫に起こして、10日間ぐらい娘と交代で夜通し看病し、毎日病院通いでした。今もほぼ毎日通院しています。自力で排泄ができないので、自宅でも圧迫排尿や腸のマッサージで排便させています。

iyコーギー: 
堀口さんと娘さんは排尿や排便の介助もできるなんて凄いですね!

堀口さん:
できないと死んじゃうんで。やらないと死んじゃうから、できるようになるんです。
最初は点滴なんてできませんでしたが、毎日点滴が必要な子がいたらできるようにならないと。病院に走っている間に何かあるかもしれないので。

基本的に、メンバーさんには元気な子を預かってもらって、老猫や看病が必要な子は私が本部で育てています。

譲渡の条件と支援について

終生飼養の覚悟を

iyコーギー: 
譲渡条件や必要な費用についても教えてください。

堀口さん:
ブログにも載せていますが、完全室内飼い、一人暮らしの方には後見人をつけていただく、などです。当たり前のことばかりです。

費用は予防医療の部分―ワクチン、寄生虫駆除、ウイルス検査、不妊手術などの実費をいただいています。

譲渡後のフォロー

iyコーギー:
譲渡された後のアフターフォローは、どのようにされていますか?

堀口さん:
しつけで困ったことがあれば連れてきていただいて、その場で直します。
病気の時の食事相談など、何でも相談に乗ります。終生のお付き合いです。

支援について ~多くの方の力が必要~

iyコーギー: 
ボランティアや支援について教えてください。

堀口さん:
預かりボランティア、掃除、買い出し、病院の送迎、TNRの捕獲やリリース、SNSでの拡散など、色々あります。

不要になったペット用品の物資支援等もお受けしています。

今後の活動や目標

行政との協力で共生社会を

iyコーギー: 
今後の活動や目標を教えてください

堀口さん:
行政と連携して、不妊去勢手術の補助を整備したいです。
野良猫問題って地域全体の問題なので、高齢者でも手術ができる仕組みが必要だと思っています。

あとは今、新しい施設を作っているところです。予算の関係でなかなか進んでいませんが、完成させて行政と協力し、動物と人間が共存共生できる世の中にしたいと思っています。

来年からは、猫カフェ『またたび庵』の運営も私たちが引き継がせていただきます。
またたび庵のオーナーさんとは長年のお付き合いで、あの人の頑張りを見ているので、ぜひ応援したいと思っています。

里親希望の方へのメッセージ

20年後を想像してほしい

iyコーギー:
最後に、保護猫の里親を希望される方々へのメッセージをお願いします。

堀口さん:
まず、色々なことを想定してください。今は健康でも何年後に病気になるかわからない。
自分が面倒を見られなくなった時に誰かに託せるか。

子猫だったら15年、20年生きることを考えて、自分の年齢や状況から大丈夫なのか?20年後どうなっているかを想像してください。

そして「誰でもいい」とか「どの子でもいい」ではなく、ピン!と来た子、「この子だ!」と思った子を迎え入れてほしい。

iyコーギー: 
10年間の活動、本当にお疲れさまです。

堀口さん:
好きでやってるだけなんです。好きじゃなかったらできません。
助けたい一心でやっています。猫好き、犬好きじゃなかったらできませんね。

保護活動や犬猫のことを語りだしたら3日ぐらい喋れますよ(笑)
これからもこの子たちのために頑張っていきます。

安易な『助け』が猫を苦しめることになる

猫を守りたいという善意が、時に「間違った保護」につながってしまうことがあります。
保護団体は無限の受け皿ではなく、日々キャパシティや費用の限界に挑みながら活動しています。

堀口さんのブログの中に「餌をあげた野良猫が子猫を産んだ」「拾ったから引き取ってほしい」「団体だから引き取ってくれるだろう」といった相談の裏にある誤解と、その結果、猫たちが直面する現実について取り上げた記事があります。
単に「餌やり禁止」にするだけでは解決にならない現状があり、地域猫として一代限りの命を見守るためのTNR(捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)活動が必要です。

本当に猫を救うために、私たち一人ひとりができる責任ある関わり方とは何かを考えるきっかけになるはずです。
猫を思う優しさを、きちんと命を守る行動につなげていくために、ぜひ一度読んでみてください。

お問い合わせ

「動物保護団体 Dep」では、保護猫の譲渡、一時預かりボランティア、支援物資の寄付を募集しています。

譲渡会開催日・場所: 【毎月第3日曜日12時~15時】千代田菰野俱楽部(三重県菰野町菰野8474-60)


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取材を終えて

堀口さんが「好きでやってるだけ」と謙遜されながらも、その活動の内容は想像を遥かに超える献身的なものだったことが、とても印象的でした。

病気の可能性に直面した時に選択した保護活動。
それから10年間、常時100頭近い動物たちの命と向き合い続け、多頭飼育崩壊の過酷な現場に一人でも入り、医療ケアやしつけまで自ら習得し、時には1日2時間しか眠れない生活を送りながらも、「今、生きているこの子たちが助かれば」という純粋な愛情や
「犬がバカなんじゃなくて飼い主が諦めちゃったらそこで終わり」という言葉は、動物との関わり方の本質を突いていると感じました。

保護活動や犬猫のことを語り出したら3日ぐらい喋れる」という言葉通り、限られた時間の中でも溢れるほどのエピソードと想いを語っていただきました。記事では伝えきれない部分も多くありますが、一匹一匹の命と真摯に向き合う「Dep」の活動の一端を、読者の皆様にお伝えできれば幸いです。

最後に、インタビュー中も保護された動物たちのケアを気にかけながら、貴重なお時間をいただいた堀口さんに心から感謝申し上げます。